SSブログ

高浜虚子:館林、太田、妻沼、熊谷吟行の記5 [紀行]

池亭を後にした虚子一行は、櫻雲閣を訪れ、「燕」を題に句会を催しました。

「櫻雲閣といふのは、もと御寺であつたのが、中学校になり、小学校になりして、今は公会堂に使はれているとの事である。随分大きな建物である。私等は一行に余程遅れて席についた。席といふのは二階である。四十八畳であつたかと思ふが、一行と熊谷の俳人と合はせて五十人程の人がその一間に居流れている。私は相談を受けて句会のプログラムを作つた。今日は作句のみをして席上選句を省略し、後日虚子先生の選を願ふ事として先生に俳話を願ふ事になつた。一行は晩餐の箸をとり上げた。千甕畫伯は単身帰られたものか遂に席上に姿を現さなかつた。虚子先生、石鼎、月舟、青峰の諸氏と私は集つて来る色紙と短冊を一枚も余さず塗りつぶした。和久井吟笑、廣瀬水楓、斎藤大霧楼、鈴木具川、斎藤紫石、斎藤紫山、馬場孤星、棚霧露翠、棚橋酔月、大倉芦川、高橋松濤諸氏の斡旋につとめているのを見た。予定時間を少し遅れて八時三十六分の上りを待つた。あとの句会はどんなに盛んであつたらう。
 席題燕五句。虚子先生選句。
 燕飛ぶや 雨をもたらす 南風強し  零余子
 巣燕に 高荷取り入るる 大雨哉  同
 陰晴の 日の大風や 燕無し  岬雲
 巣燕に ラムプ淋しや 峠茶屋  石鼎
 浜燕 月落ちてあり 海廣し  一二
 山頂に 汗拭ふ上を 飛ぶ燕  青像
 (聖天山門)ふと仰ぐ 眼に燕の尾を 見たり  としを
 燕に 緋をのみ張れる 緋雨哉  晴崖
 集燕に 馬おとなしや 百姓家  巣霞
 飛ぶ燕 草家の庇 細雨あり  吟笑
 荒浪に 見え隠れする 燕哉  花重子
 軒並に 漁具掛けて住むや 燕飛ぶ  青峰
 燕に 櫻の夢の 紅き哉  的浦」

下の写真は、明治末から大正期にかけて発行された櫻雲閣の絵葉書です。
ymy-110-000-001.jpg
nice!(0)  コメント(0)